over and over
忘れもしねぇ。初めて俺の部屋にあいつが入ってきたのは、三年前のクリスマスイブの夜だった。
いや、正確にゃ"押し入られた"と表現するべきだな。
チャイムも使わず扉をドンドン叩きやがる馬鹿がいるもんで、大儀だが晩酌を中断して出ていってみたら、あいつが陽気な顔で手を振ってたんだ。まだ宵の口だってのにベロンベロンに酔っ払って、ローストチキンの入った袋を俺に押し付けながら「さみしいヤモメ男にサンタからのプレゼントよぅ」だの「ホーレ、有り難くお食べ」だのとケラケラ笑いながら、玄関先に座り込みやがった。
夜には雪も降ろうかという気温の中、捨て置く訳にもいかなくて、不本意だが部屋に上げた。自宅に送り届けるにゃ寒すぎたし、往復のタクシー代も馬鹿にならねぇからな。
切り分けたチキンを肴に、大して笑えもしねぇクリスマス特番にツッコんだり、益体もない話をしたりしながらダラダラ飲んでいたが、しばらくするとあいつは船を漕ぎ始めた。
口を半開きにして、土産物の赤べこみたいに縦に揺れてるすっとぼけたツラを見ていると、呆れるやら無性におかしいやら。多分、酒の勢いを借りようとして逆に呑まれちまったクチなんだろうな、と簡単に想像がついた。なーにがさみしいヤモメ男だよ?さみしいのはお前の方だろうが。
付き合いきれんぜ、と思いながらも毛布を二枚かけてやり、部屋の電気を消した。
その頃の俺は、軌道に乗り始めた新しい仕事に心血を注いでたわけで、その同僚であるあいつ......うらら、とどうのこうのなんてのは考えてなかったし、むしろ、そういう面倒な事態になるのは避けたいと密かに思っていたぐらいだ。苦労してやっとこ回り始めたものを、おかしな関係の縺れで台無しにはしたくなかった。一般論として、色恋沙汰にうつつを抜かして、碌なことにゃならねぇもんだ。
だが、そう思ってるのは俺だけだったんだろう。仕事が終わってから周防と三人で飲みに行って、うららが席を外した時、あの分かりやすい堅物刑事が緊張した様子で声のトーンを落としてこう聞いてきた。
「その、芹沢君とは......どうなんだ?」
お前なぁ。反抗期の息子に「最近学校はどうだ」って聞いてくる無口な頑固親父じゃねぇんだからよ。
内心では面白がりながら、俺は真顔でしらを切ってみせた。
「......どうってなぁ、どういうこった」
さながら、気分は盗塁を誘うピッチャーだ。
「そ、それはだな......何というか、その。なにかこう、彼女に対する気持ちの変化、というか、進展のようなものはないのか?ということだ」
「あん?別にねぇよ、そんなもん」
「......何も感じないというのか?」少しムッとしたような表情で俺を見てくる。「普段傍で見ている訳ではないが、彼女の頑張りは僕にも伝わってくる。お前の隣に並んで歩くために一生懸命やっているんだ」
「それで?ご褒美にハグでもしてやれってのかい」
俺が含み笑いをしながらど真ん中に球を投げてやると、周防の頬にさっと赤味が走った。
「い、いや、そういう直接的な事ではない。......お節介かもしれないが、そろそろ、彼女とお前の関係性についても真剣に考えてみてはどうか、という意味で言っているんだ」
「真剣に考えてるさ......」
驚いた顔をする奴に、グラスを掲げてみせた。
「芹沢と俺、どうやったら今後も"いい距離で""うまく付き合って"仕事をやっていけるかをな。俺にとっては、これが、一番大事なことなんだぜ」
「......この朴念仁が」
「ヘへ、お前さんだけにゃあ言われたくねぇぜ」
眉間に皺を寄せた周防の非難がましい視線を躱すように、俺は酒を呷った。
そもそも、うららが仕事を頑張るのは(まぁ俺のためも少しはあるかもしれないが)本来はあいつ自身のためであるはずだ。自分だけの生き方を見つけていくために、自分でこうありたいと決めて選んだ道だ。俺が、その献身を有難がって労わるようなもんでもねぇだろう。
「隣に並んで歩きたい」
そのこと自体はいい。だが、うららが俺を見る目には「......できれば公私ともに」という期待が混じってるわけで、正直なところ、俺はそこに多少げんなりしていた。何かに寄りかからなくても生きていけるように強くなりたい、そう思っていたんじゃなかったのか?結局、俺という心の支えを求めているんじゃねぇのか?
もっと正直に言うと、俺を頑なにさせる理由はそれだけじゃなかった。まだ心の中に、小さな影が焼き付いていたせいだ。日々の暮らしの中で、時々、ふっと現れる気配のような何かを俺は感じていた。
美樹だ。
マガジンラックの向こうで。給湯室のドアの横で。あるいは、観葉植物の近くで。美樹がそこにいて笑ってる、そんな気がしちまうのは、おそらくだが、光の差し込む事務所で過ごすようになって、昔を思い出して感傷じみた気分になっちまうせいなんだろうな。
「パオ、コーヒー淹れてきたわよ、ちょっと休憩したら」
(嵯峨さん、根詰めすぎよ。コーヒーでも飲んで休憩しましょ)
うららの声とダブって幻聴が聞こえるほどだから、かなり重症だったのかもしれねぇ。
結局、俺は美樹の事を忘れることはできねぇし、そんな男がまた他の誰かを愛するなんざ......笑止千万ってもんだろう。だから俺は何もかも見ないふりをして、ただ仕事のことだけを考え続けた。
状況が変わったのは、二年前の初夏のことだ。
初夏と言っても、その年は妙に冷え込みやがって(何せ四月の終わりごろに雪が降っていたぐらいだ)コートを着ずに外に出ると震えがくるほどだった。
俺はとっぷり暮れた寒空の下を家に向かって歩いていた。クライアントとの打ち合わせが長引いちまって、予定外に遅くなった。
暗い空からポツポツと冷たい雨粒が落ちてきたな、と思ってるうちに、見る間に激しく降り始めやがった。傘を持ってなかった俺は濡れ鼠になりながら家に辿り着き、とりあえずバスタオルで全身をざっと拭いた。
ひと心地ついてふと気になったのは、あいつ、うららはちゃんと帰り着いただろうか、って事だった。
ターゲットの住民票と謄本を取ってくるように伝えて、上がるときは電話するよう伝えていたが、こんな時間だというのに携帯を見ても着信がない。ったく、なにやってんだよ、と舌打ちして電話をかけた。
数コールの後、電話が繋がった。
「俺だ。どうだった?ちゃんと取れたのか?」
だが、返事がない。
「芹沢?」
電話の向こうはクリアな音質で、背景の雨音が聞こえているから、ポケットやカバンの中で繋がってしまったという訳じゃねぇようだった。誰か違う人物がうららの代わりに出たのか?俺は嫌な予感がして、即座に録音ボタンを押した。
「おい、芹沢か?今どこにいる?聞こえてねぇのか?」
「............ごめん」
電話の相手が、押し潰されたような重い声で呟いた。その声がうららだったことにとりあえず安心したが、どうも様子がおかしい。
「だいじょぶ。書類取ったわよ。......じゃあね」
覇気のない声が囁くように、しかし一方的に告げ、そして通話は終わった。
「おい!?」
一体なんだってんだ?俺はすぐさまリダイヤルしたが、それ以降は全く繋がらなかった。
さっきの録音データを再生してみると、雨音以外にも横断歩道のメロディや行き交う人の声がうっすら入り込んでいる。それにコンビニの入店音。横断歩道が赤になり、車のエンジンがかかる。どこかの大通りだ。
繰り返し聞いているうちに違和感を覚えた。雨の音と重なるようにして、何かせせらぎのような音が聞こえる気がした。
......川?川沿いにコンビニのある大通りがあっただろうか?
いや、川というよりはもっと水量が少なく、それでいて極めて正確に一定量を流し続けている音のような気がした。
噴水......。
俺の脳裏に閃くものがあった。今日うららはどこへ行った?市役所だ。水の流れる、滝を模したオブジェがあるじゃないか。駅前通りに面していて、コンビニもあったはずだ!まだあのあたりにいるに違いねぇ。
俺は傘を引っ掴んで家を飛び出した。
急いで駅へ向かいながらも、道すがら、俺は美樹の事を少しだけ考えていた。控えめだが芯の強いあいつは、血気盛んで我が道を行く俺を諌めるのが自分の役割と思っているようだった。だが時は過ぎ、俺が鉄砲玉のうららをこうして心配して探しまわる役割になっているのが、なんとなく皮肉っぽく感じられた。
駅前通りを西から東へ、走りながら探していると、交差点、横断歩道を挟んで向こう側にうららの姿を見つけた。ペルソナの共鳴を利用するまでもなかった、あいつは大分個性的ななりをしていやがるからな。
バッグを胸に抱いて背中を丸め、俯いて立っている、何かに打ちひしがれたような姿。傘も差さずに幽霊のように立っている女をちらちらと見ていた連中が、信号が青になって足を踏み出しても、うららは動かなかった。
「......おめぇ、何やってんだよ」
信号を渡って近付き、傘を掲げてその下に入れてやったが、あまり意味はなさそうだった。たった今プールからあがってきたのか?ってぐらい、うららはずぶ濡れだった。
「......」
「黙ってちゃ分かんねぇだろ、何とか言えよ」
「......市役所で会ったの。前に依頼してくれた人。家出した娘さんを捜してた、運送屋のおっちゃん、覚えてる?」
「あぁ、あの恰幅のいい大将かい。覚えてるぜ。それがどうした」
「......娘さん、亡くなったんだって」
カバンが歪むほど強く抱き締めて、うららは震えていた。
「......駆け落ちに失敗した恨みつらみを、遺書にのこして......じ、自殺したって......」
俺は驚くでもなく、なるほどな、と冷静に考えていた。それで凹んでいたわけだ。話が見えた。
要するに、無理に居場所を暴いて連れ戻さなけりゃ、こんな結末はなかった。全てを捨てて逃げ出したかったのに、その希望を断たれたから娘は死んだ。人を援けるための仕事が、人を殺した。それで絶望してるってところか。
くだらねぇ、と思った。
「そんなことより、今日は折り畳み傘持ってなかったのかよ?お前にしちゃ珍しいな」
俺はわざとらしいほどいつもの調子で軽口を叩いた。
「......そんなこと?そんなことって何よ......」
静かに怒気を含んだ低い声が、俺を詰ろうとしている。そうはさせるかよ。
「ヘへッ、だが、マスカラが溶けて流れてねぇところを見ると、そこはしっかり防水のやつ塗ってきたんだな。つーかよ、その鞄の中、まだ謄本とか入ってんだろ。雨でもうビッチョビチョになってんじゃねぇか?使い物にならなかったらもっぺん取りに行かせるからな。チッ......ったくよ、本当にできた相棒だぜ、面倒ばっかりかけてくれやがって。長ぇ打ち合わせがようやく終わって、今日は安眠できそうだと思ってたら、これだもんな。まさに寝耳に水ってやつだぜ」
ひと息にまくし立ててやると、うららは口を噤んだ。
「おら、これ持ってろ。とっとと行くぞ。寒くてかなわねぇや」
右手に無理やり傘を持たせ、左手を掴んで引きずるように歩き出すと、うららはつんのめりながら俺の後に続いた。
「ちょっ......」
細い手首からは、皮手袋越しとはいえ、体温が全く感じられなかった。どれぐらいの時間あそこに立っていたのか。全く馬鹿な奴だ。
引かれるままに大人しくついてきながら、うららはおずおずと傘を俺の頭上に差し掛けて来た。
「阿呆、いらねぇよ。これ以上書類を濡らすんじゃねぇ」
俺が鬱陶しそうに払うと、うららは黙って傘を引っ込めた。
まったく、こうなると分かってりゃ、傘を二本持ってきたのによ。
さすがにびしょ濡れのままではタクシーにも乗せられねぇし、俺はうららを連れて帰った。家に辿りつくころには、俺もプールに落下した後みてぇな様相になっていた。
二度目に俺の家の玄関をくぐったうららは、前回とは別人のように黙りこくっていた。
「やれやれ、クソ寒ぃ中えらい目に合わされたぜ。廊下が濡れても構わねぇから、そのままとっとと風呂に行っちまいな」
「......」
「着るもんは適当に見繕ってやるよ。おい、ボーッとしてるんじゃねぇ。とっとと行けってんだ」
相撲の突っ張りよろしく、背中をどすどす小突いて風呂に追い立ててやる。さすがに土足で上がることには抵抗があったのか、渋々、膝で這うようにしてバスルームへ入って行った。
その間に俺の方は、出がけに投げ散らかしていった使用済みバスタオルで、もう一度全身を入念に拭いてから、部屋に上がった。
チェストを開けて服をひっぱり出す。俺は、いわゆるパジャマとか寝間着とかいった衣類は一切持ってねぇ。寝てる時だろうが食ってる時だろうが、俺を殺そうとする相手は待っちゃくれねぇだろ?そういう緊迫した生き方が身に染み込んじまってて、大抵シャツとパンツで過ごしてるからだ。余所行き以外はどれも似たような色とデザインのもんばかりだし、当然サイズも一種類だ。大して見もせず、適当な上下を組み合わせて持っていった。
脱衣所から風呂に向かって声をかける。
「着替え、ここに置いとくぞ」
ぽちゃん、と水音がしただけで返事はなかった。ちょうど風呂に浸かっていたようだ。捨て猫を拾ってきて世話しているような、何とも言えねぇくすぐったさがあった。鏡の中の俺を見ると、口元が穏やかな笑いを浮かべていた。
「......しっかり温まってこいよ」
洗った自分の服を小脇に抱えて、俺の服を着たうららが出てきた。余った袖と裾は、丁寧に巻き上げられていた。
化粧を落とした顔を初めて見た。やっぱり普段とは多少印象が違って、まぁ一つ一つのパーツは悪くないしトータルで見て不細工ってこともないんだが、どうにも地味というか、淡白な顔だな、という印象だった。
入れ替わりで風呂に入り、湯船に浸かって、寒さにこわばった全身がやっと解れた感じがした。髪を拭きながらリビングへ向かうと、うららは膝を抱えてソファに座って、テレビのコマーシャルを見るとはなしにぼんやり眺めていた。
冷蔵庫から缶ビールを出して勧めたら、ふいと顔を背けて拒否されちまった。仕方なく一人で飲みながらチャンネルを回す。特に見たくもなかったが、うるせぇお笑い芸人が何人も出演するバラエティ番組の再放送をやっていたんで、そのチャンネルにした。今はとにかく賑やかな方がいいと思った。
騒がしいついでに、俺がドライヤーをかけ始めても、うららの反応はない。いつもの調子なら「あーもう、うっさいなぁ!テレビ全然聞こえないじゃん」とでも言いそうなもんだが。
「いつまでもウジウジしてんじゃねぇよ」頃合いを見て俺は発破をかけてやる。「依頼のあとの人生までずっと守ってやることなんざ、できっこねぇだろ。俺達ゃセラピストじゃねぇし、予言者でもねぇんだ」
ビールで唇を湿らせながら、少し考えて続けた。
「例えばの話......だ、道ですれ違った相手に『その服、前後が逆だぜ』って伝えるとするだろ。相手は無視するかもしれねぇし、恥ずかしくて走って逃げ出すかもしれねぇし、慌てて着替えに戻るかもしれねぇ。その途中で事故に遭って死ぬ、って事もあるかもしれねぇな。だがよ、そんなの予測できるか?」
うららは何も言わなかった。俺は構わず続けた。
「俺達と関わったことでどうなろうと、そいつの人生だ。ましてや、そいつ自身が面倒見きれなくなって投げ捨てていったもんに対して、......お前が責任感じる必要はねぇ」
言い終わるとリビングは静まって、テレビだけが相変わらず空騒ぎを続けていた。
俺はもう言いたい事は全部言った、という感じでふんぞり返ってビールを飲み干した。
「......アンタみたいに」
ようやくうららが口を開き、(おっ、ついに反撃来るか?)と思って見てみると、その顔は意外にも微笑みを浮かべていた。
「強くなりたいと思ってるのに、なかなかうまくできなくてダメね、私。要修行だわ」
「へへ、お前さんらしいっちゃあらしいがな。詐欺られた時も、メンタル鍛えるべきところをジムに通って体鍛えちまう女だからなぁ」
「もう、それ言いっこなしだって」
顔をしかめて唇を尖らせる。少しは立ち直ったか?俺は安心した。
「まぁ、なんだ。強くなりたいってのはいいが、あんま肩肘張んなよな。見てて痛々しいからよ。別に、一人で抱え込まなくたっていいんだぜ。その......あれだ。たまには頼れよ。俺の事も」
安心したせいで、気が緩んじまったのかもしれなかった。自分でも予想外な台詞が口をついて出た。
寄りかかられるのはごめんだと思っていたが、少しだけなら......許容してやってもいい。これも、時の経過が俺にもたらした変化の一つだろうか。
うららにとっても驚きだったのか、何度か瞬きをしながら俺の顔を見ていた。だが、徐々にその表情が怒りの形相に取って代わりつつあった。
「......なにさ。いつもはにべもなく突き放すくせに、たまに優しいこと言ったりして。そういうの、やめてよ。......そういう態度が私の気持ちを引っ掻き回すのよ」
悔しそうに唇を噛みながらうららは吐き捨てた。
「おいおい、逆ギレか?」
ちょっと気遣ってやりゃ、これだ。俺は身勝手な言い分に呆れた。
「なんでそうなっちまうのかねぇ。ちっと優しくされたぐらいでフラフラするような駄目女だから騙されるんだってぇのに、まーだ分からんのかね、この阿呆は。お前は変な方向に考え過ぎなんだよ。弱ってる時ぐらいは助けてやってもいいぜって話だろうが」
沈黙が落ちた。
うららは顔を上げ、虚ろな目がゆらりと俺を見た。
「......弱ってるわよ。助けて欲しいわよ。でもアンタに何ができるってのよ?」
そう切り返されて、俺は何も言えなかった。
助ける......。確かに、俺にできることはほとんどなさそうだった。ついさっきやったみたいに、さりげない慰めだとか励ましだとか、その場しのぎのものを与えてやることはできても、それ以上は難しいだろう。うららが本当に救われるのはきっと、誰かの愛に包まれて、その相手と痛みも哀しみも分かちあえるようになった時だ。
結局、俺が口にしたのは綺麗事でしかないってことか。
まさかお前に論破されるたぁな、と苦笑していると、急にうららは立ち上がって俺のところまで来た。
何事かと見上げる俺の眼前で、うららは......シャツのボタンを素早く外した。
「な、おい......!?てめぇ、何してんだ!?」
下着は服と一緒に廊下に干してあり、当然、中には何も着ていない。
慌てて腕を掴んで、両肩のあたりで固定してやめさせようとするが、服から手を離すまいとするもんで、シャツの前が引っ張られてボタンが数個弾け飛んだ。
かろうじて止まっているボタンはたったの一個、という有様だった。うららの体は貧相な胸の下まであらわになっている。シャツの衿が背中の方までずり落ちて、細い肩がむき出しになっていた。言い方はアレだが、まるで暴漢に襲われたみてぇな......恰好だった。
うららの腕からはとっくに抵抗など消え失せているのに、なぜだか俺はそれを離せなくて、ただ、食い入るように彼女を見てた。
「辛いの。心が悲鳴をあげてるのよ。何も......考えたくないの。......助けてよ。私を滅茶苦茶にしてよ。今夜だけでいいから。明日になったら、ちゃんと忘れるから」
震える声が、俺の胸を叩いた。
俺はうららの裸の肩を掴んで狭いラグの上に押し倒し......そして、抱いた。
妙な興奮が俺を支配していた。ちょっと前まで、拾ってきた子猫を慈しむ飼い主に似た気持ちでいたのに、どうしてこうなったのかは分からねぇが......タガが外れたみてぇに夢中で抱いた。
外では狂ったように激しい雨の音が続いていて、まるで世界からたった二人だけ切り離された気分だった。
あの時、俺を崖上から突き落とした最後の一撃が、憐憫の情だったのか、それとも単なる性欲だったのかは、今となっちゃもう思い出せもしねぇが、とにかく、終わった後には大きなやるせなさが残った。
宣言通り、うららは、その夜のことを存在しなかったもののように扱った。
朝起きて服を身につけ、じゃあ先に行ってるわ、と一言言った以外はいつも通りだ。わざと少し遅れて仕事場に着くとうららはもう普通に仕事をしていて、コンビニで昼食を買ってきて普通に食い、俺への雑談を普通に振ってきて、お疲れ様と手をあげて定時ちょっとで普通に上がる。
何かを抱え込んでいるはずなんだ。
明日になったら忘れる、とは言っていたが、あいつがそんな器用なことできるわけがねぇからな。
だが、うららは表面上は前と変わらない日々を過ごし......今まで以上にわざと快活に振る舞っているようなふしはあったが......クライアントとも積極的に関わり、感情移入してもらい泣きをしたり、俺がたしなめるのも無視してプライベートで相談に乗ったりと、相変わらずだった。
一方で、俺達の関係は大きく変わった。
しばしば俺はうららと寝るようになった。最初がそうであったように、誘うのは、いつもあいつの方だった。
――今日、話聞いてよ。
――今困ってることがあってさ。
――ちょっと後で悩み聞いてくれる?
そんなわざとらしい台詞が、いつの間にか俺達二人にとっての秘密の合言葉になっていた。もっともらしい理由にかこつけて俺の家で飲み、適当に酔いが回ったらベッドへ縺れ込む。寂しくなったうららは俺を頼り、俺はうららの心の隙間を埋めてやる、という構図だ。
あいつがちゃんと割り切ってるんだから、別に俺の方に不都合はねぇ。ほんの一時与えて与えられて、互いにいい思いをする、それだけだ。何の問題がある?
心の底の方で言い訳をしながら、ずるずると関係は続いた。
半年もする頃には、半同棲と呼んで差し支えねぇ状態になっていたと思う。服や化粧品、スリッパ、歯ブラシ、シャンプーにコンディショナーにトリートメント、体を洗うスポンジ......あらゆる物を、うららは俺の住処に持ち込んだ。最初はヘアブラシや髪留めのような小物ばかりだったから、忘れて行ったのかと思って聞いてみたらよ、実は故意犯だったわけだ。しまいにゃ、堂々と外部からダンボール箱で送り込んでくる始末だ。
「おい、覚えのない宅配便が届いたぞ。何だよこの派手なクッションは」
「アハハ、可愛いっしょ。ハートのもこもこクッション。テレビ見る時こうやって抱えたら気持ちよさそうと思って通販で買ったのよぅ」
「どう考えてもインテリアのテイストと合わねぇだろ。お前の美的センスどうなってんだぁ?」
「いいからいいから。テイストとか気にしたって意味ないわよ、どうせ私以外来ないじゃん、この家。うわっ、ねぇちょっと、ギュッてしてみてコレ。フカフカしてすっごい気持ちいいわよぅ~」
俺に断りもなく物が増えていくのは歓迎できねぇが、こういう他愛もないじゃれ合いをしている時、うららが心から笑っているのが分かると安心する。笑っているうららはいい。大して利口でもねぇんだから、悩んでる顔や辛そうな顔なんてしたって似合わねぇぜ、お前さんは。どんな悲しみからも守ってくれるプライベートのパートナーを見つけて、さっさとどこへでも行っちまえよ。
俺はよく、そんな物思いに耽るようになった。
だから、うららがいなくなった時、俺は思ったんだ。ああ、ついにその日が来たのか......ってな。
思い返してみれば、失踪する前夜、確かにうららの様子はおかしかった。
約束もしていないのに急にやってきて、俺の好物ばかりで構成された晩飯を作ったかと思うと、食ってる俺の様子をテーブルの向かいの席に座ってじっと見つめてくる。何とも言えず、切なそうな表情で。
「何眺めてんだよ、食いづれぇだろ」
俺が居心地悪そうに文句を垂れると、へへ、と笑って目を細めた。
「おいしい?」
「......まぁな」
何かあったのだろうと思ったが、うららがカードを場に出さない以上、俺が動くことはできねぇ。そこにいて、ただ向けられる感情を受け止めるだけ。それが俺の役割だった。
ベッドの上でも、普段と違う行動は続いた。
いつもは、俺が気持ちよくなることを優先した(いっそ雑と言ってもいい)セックスをするのが暗黙のルールだった。うららは優しく触れられるのを嫌がり、とにかく手荒に抱かれたがった。だがその日は、まるで俺が一人で先に果てることを恐れて抵抗するかのように、泣き出しそうな顔をして、身体を強張らせるばかりで、動きも鈍かった。具合でも悪ぃのかと身を引きかけた途端、俺の首に腕を絡めてキスをねだってきた。
俺は困惑した。深い酩酊に乗じて戯れに交わしたこともなくはないが、普段は意識して避けてきた行為だった。だってよ、キスってのは女にとって、いや男にとってもそうかもしれねぇが、特別なもんだろう。それを、お前。
あたたかく濡れた唇の触れ合う感触が、素面のはずの頭をぼんやりさせた。離れがたくて、長い時間そうしていたが、ふと目を開けると、うららの睫毛の端から涙がこぼれているのが見えた。
何がそんなに悲しいのか分からねぇが、そうすることでお前の気が済むなら、何遍だって抱いてやる。
そう思った。
なのに、朝になるとうららの姿は消えていて、その日を境に、仕事場にも来なくなった。
あのうららの態度は、最後の思い出作りに来たのだと思えば、合点が行く。
別に、いい男ができたならできたで、それは構わねぇ。元々、俺自身、そうなればいいと思ってたことだからな。だが、仕事を放り出して、俺に何も知らせずに行くとはどういうことなんだ?せめて、電話は繋がるようにしておけよ。
天野に聞いても、行き先に心当たりはないと言う。
「ごめんなさい。最近私も立て込んでて、帰る時間がまちまちですれ違いばっかりだったから分からないの。何か悩んでいるふうではあったけど......話す時間が全然取れなくて」
「......そうか。忙しい所悪かったな。芹沢から連絡が来たら教えてくれ」
軽く礼を言って電話を切った。重いため息が、閉め切った室内の淀んだ空気を揺らした。
はなから、周防にかけるつもりはなかった。あいつが大ごとにして、警察が本格的に介入してくることにでもなったら厄介だ。行方不明事件を当局が総力を挙げて調査した結果、どこかの男と一緒に暮らし始めただけと判明しました、なんて目も当てられねぇ。
もちろん、事件性のあるものなら、周防に協力を求めることもやぶさかではねぇが、この失踪はそうではないと俺は確信していた。
なぜなら、俺の家を立ち去る時、うららは、俺の部屋に置いてあるいくつかのものを持ち去っていたからだ。
ピンク色のマグカップ。ツヴァイトのCDが入ったポータブルプレーヤー。ポーピーくんスリッパ。ハート型のクッション。どれもうららが特に気に入って、よく使っていたものばかりだ。
他にもなくなっているものがないか部屋の中を調べたが、至る所に残るうららの痕跡をまざまざと見ることになっちまって、改めて気が滅入った。
鏡の前で化粧していた後ろ姿が。ブランケットに包まって気だるそうにソファにもたれている横顔が。料理している時の穏やかな表情が。俺の服でいっぱいの引き出しに自分のパジャマをねじ込みながら見せた悪戯な笑みが。強気な眼差しが。寂しげな微笑が。屈託のない笑い顔が。あらゆる場所に、色んなうららの面影が感じられた。美樹の幻よりもずっと鮮やかな色合いで、俺の中に息づいていた。
まただ。また、失ってから気付くのか。俺は、救いようのねぇ馬鹿だ。
数日間、俺は事務所を開けなかった。
そんな気分になれなかった、ということではなく、どうしても優先しなければならねぇ調査があったからだ。
川原に車を留めて土手に登ると、辺りの住宅街が一望できる。小道に入って少し歩くと、ターゲットの家が見えてきた。二階建ての、こぢんまりした造りの平凡な家だ。
どうやら住人は外出中のようだ。俺は民家の塀の影から様子を伺いながら、辛抱強く待った。
五時間ほど経って、家々の明かりが灯り始める頃、一台の車がターゲットの家の前に停まった。後部座席から二人降り、残る一人、運転席に座る人物が車を駐車場まで転がして行った。俺は急いで家の裏手へ回り込んだ。
それからさらに一時間ほど待った。
今日は冷えると思っていたが、ついに雪が降ってきやがった。
やれやれ、と曇天から視線を戻したまさにその瞬間、ようやく、二階の部屋に電気が点いた。......本当にようやくだ。こんなに時間の進むのが遅く感じられたことは今までになかった。
「......」
俺は逸る気持ちを抑えて窓の下に近付いた。
顔を上げて、じっと見据える。
やがて、二重になったレースの遮光カーテンの向こうで人影が揺れ、俺のペルソナに共鳴して呼び出された人物が、静かにガラス窓を開けた。柔らかそうなセーターの上に半纏を羽織って、白い息を吐きながら俺を見下ろしてくる。
うららだ。
その顔に驚きはなかった。愛おしむような、面映ゆそうな、涙を堪えるような、それでいて穏やかな面持ちをしている。
ひとしきり無言で見つめ合っていたが、うららは窓を閉めて踵を返し、数分後に家の裏口から出てきた。半纏の上にさらにポンチョを重ね、足元はムートンブーツに覆われていた。家人を気にしながら忍び足で近付いてきて、そっと囁く。
「ここじゃアレだから、ちょっと......」
俺の袖を引いて歩き出したうららに導かれ、まばらに降る雪の中をしばらく歩いた。住宅街を外れ、人気のない裏道に辿り着くと、うららは歩みを止めて俺を見上げる。再び視線が絡まっても、どちらも黙りこくったままだった。
「......今日は張り込みで来たの?お仕事お疲れ様」
おどけたような台詞で、静寂を破ったのはうららだった。
「ヘッ、ターゲット本人に、んな事言われんのは初めてだな」
「依頼人は誰?マーヤ?それとも......」
「それは言えねぇな、なんたって守秘義務があるからよ。だが、」俺は薄ら笑いを引っ込めた。「その男はお前が突然いなくなって、本気でダメージ食らってたって事だけ伝えとくぜ」
「......ゴメン」
うららは俯いた。
「最初は、新しい男のとこにでも転がり込んでるのかと思ってたんだがよ。ちっと気になってお前の実家の住所を調べて見にきてみたら、あっさりいるじゃねぇか」
「......うん、親が色々うるさいから、あんま帰るのは気が進まなかったんだけど」両手の指を、胸の前でさすりながら握り合わせている。急いでいて忘れたのか、手袋はしてこなかったらしい。「ちょっと、事情があって、さ」
事情......ね。そう、俺はそれを本人の口から直接聞き出すために、今日、こいつを呼び出した。
「なぁ。お前、もしかして妊娠してるんじゃねぇのか?」
うららが息を飲む。否定の言葉はなかった。
「やっぱりそうかよ」
俺は頭を掻いた。最初の一回以外、避妊はきちんとしてたつもりだが、百パーセント安全って保証もねぇからなぁ。
「車に乗り降りする時、お前のお袋さんが庇うみてぇに寄り添ってたから、もしやと思ったんだ。......何で俺に一言も言わねぇで消えようと思ったんだよ?」
「......色々、悩んで決めたのよ」
少し迷った後、うららは睫毛を伏せて、考え考え語り始めた。
「だって、アンタ、戸籍も持ってないんだもん。できたの、責任取って、なんて言えないじゃん?認知もできない子供と、シングルマザーの私を養っていく義理、ないっしょ。赤ん坊抱えて人探しの手伝いだってできっこないから、もう完全に足手纏いだよね。アンタの邪魔にはなりたくないし、面倒だと思われるのも嫌だな、って。だから、もう今までみたいに都合のいい時だけパオに甘えたりもできない、これからは独りで頑張ろう、って決めたんだ。それで、寂しいけど、お別れしなきゃ、って――」
急に言葉を切ったうららの両目から、涙がポロポロとこぼれた。
「――そう思って。最後に、アンタのとこ行ったの。私が男を作って去って行ったとでも思って、追及しないでいてくれるなら、それが一番いいって思ったのよ」
化粧を擦らないように気を付けながら、半纏の袖で目元を押さえるうららを、俺は黙って見ていた。
かつて、男に見返りを期待していた打算的な女は、もうそこにはいなかった。
とんでもなく不器用なやり方だが、お前はいつの間にか、自分の足で立っていたんだな。
フゥッと長い息を吐き出す。
「お前の決意は分かった。だがよ、忘れてるもんがあるぜ。お前の気持ちはどうなるんだよ」
「......私の......気持ち?」
初めて聞いた言葉です、みてぇなキョトンとした顔してやがる。まったく呆れて物も言えねぇぜ。
「そうだよ。ああしなきゃとか、こうしちゃいけねぇとか、それはあくまでもお前の考えてる理想とか制約の話だろ。お前自身が望んでることだとでも言うのかよ?」
「それは......」戸惑って外された視線が、しかし、強い光を湛えて俺の顔を再び捉える。「でも、アンタに迷惑かけたくないってのは、間違いなく私が望んでることなの」
「そのために俺の元から去るってのも、お前が本心から望んでやってることか?」
「............」
うららは自分の体を抱きしめるように、交差した両手でフリースのポンチョをぎゅっと握った。
「もう、やめてよ......私の気持ちなんて、どうでもいいじゃん」
白い指はすっかり冷え切っていて、舞い落ちる雪が付着してもすぐには融けないでいる。
「そうかい。じゃあ聞くがな、俺の気持ちはどうなるってんだ?」
俺は少し強い口調で言った。
「お前の理想を押し付けられて、お前の去った理由を誤解するよう仕向けられて、ガキができたって事も知らされずにのうのうと一人で気侭に生きていくのが、俺の望みだとでも言うのかよ?」
うららが胸を押さえる。苦しそうに息をついて蒼ざめた顔をするので、彼女の体が心配になった俺は、慌ててその肩を手で支えた。
「......悪ぃ。別に、お前を責めたいわけじゃあねぇんだ。だがな、俺の気持ちも知ってくれ」
パオの気持ちって?不安そうな目がそう問いかけている。俺は、うららの体を引き寄せて腕に閉じ込めた。
身じろぎするのに構わず強く抱擁すると、すぐに大人しくなり、コートの胸がうららの吐息で温かく湿った。
「俺はなぁ。これから、お前と生きてみるのも悪くねぇと思ってんだよ。寄りかかるとか、背負っていくとか、そういうんじゃなくてよ、今のお前となら、支え合う、......ってことができるんじゃねぇかと、思ってる」
ポンチョの背中を優しく撫でてやる。
「確かに、俺には戸籍がねぇから、お前にもガキにも不自由な思いをさせることはあるだろうが、それでも、家族にはなれるはずだろ?お前にも、そうなりたいって気持ちがあるなら、の話だがよ......」
うららは俺の胸に顔を埋めて、声を殺して泣きじゃくっていた。それが、答えだった。
腕の中のぬくもりを感じながら、地面に落ちては音もなく消えていく雪を見ていた。
口にはしなかったが、本当の気持ちは、実は他にもあった。こいつの体の中に、俺の血を分けた子が宿っている......そう考えると、神なんて信じてねぇこの俺なのに、跪いて何かに祈りたいような衝動が湧き起こってくる。天涯孤独で生きてきた俺に与えられた、まだ目にも見えねぇほどの小ささだが確かにそこに存在する、強い絆を、この上なく尊いと思う。だから、俺はそれをくれたうららに感謝している。
泣き止むのを待って、白い息を吐く唇に想いを込めた口づけを落とした。素直に応じてくるうららを、愛しいと思う。
「折角だから、お前さんの両親に挨拶していくか?だが、今から手土産買いに行ったらかなり遅くなっちまうな」
「あー、......今日はやめといた方がいいと思う。すぐ戻るって言って出てきたのに、結構時間経っちゃったから、父さん機嫌悪いよ、きっと」
「なんだ、門限のある子供でもあるめぇによ」
「妊婦だから心配してんのよぅ。寒い中出てって、しかもパオと会ってたなんて知れたら、もう大激怒だわよ。アンタのこと、良く思ってないしね。なんたって、嫁入り前の娘を孕ませた、正体不明の怪しい台湾人ってことになってるから。牧村の一件で助けてくれた人なんだってことは伝えたけど、本当の国籍も含めて、素性のことまでは説明できないし......ねぇ。結婚詐欺のことも含めてだけど、お前はろくでもない男にばっかり引っかかって、みたいな感じでかなりコッテリ絞られたもん。母さんはずっと泣いてるしさぁ。おばあちゃんだけはこっそり味方してくれたけど、マジできつかったわ」
俺は聞いていて頭が痛くなってきた。
「......いきなり前途多難だな、こりゃ」
げんなりした顔の俺を、うららは声を上げて笑った。
「まあ、だいじょぶだって。すぐには難しいだろうけど、根気よく何度も話せば、分かってくれるわよ。アンタのこと」
「長期戦の覚悟が必要かねぇ。......しっかりフォローしてくれよな」
「うん、ちゃんと隣でフォローするから。これから先、ずっとね。二人で、」言いかけて、自分の腹にそっと両手を添えるうらら。「......三人で支え合えば、どんな困難だって乗り越えていけるわよ。きっと」
「あぁ」
確信を持って俺は頷いた。未来を予知する力はなくても、それだけは間違いねぇと断言できた。



